
代議制民主主義は、まだるっこしい。異なる意見にも冷静に耳を傾け、粘り強く調整を行わなければ、何も決められない。その過程で、さまざまな妥協を強いられる「バカ」は、その手続きに堪えられない。
しかし、あきらめてしまっては、望みは達成できない。妥協によって、当初の何分の一かに減ってもでも、まずは望むことに向かって実際に踏み出さなければならない。
政治とは、事実を見つめて事態を動かすことだ。自分自身が直接、政治を動かすわけでなくても、自分が権利を託すべき対象を見極め、その行動を注視し続けねばならない。
そんな面倒なことはイヤだ、と利害調整抜きの断行を唱えるヒーローを望む者は、自分のなけなしの権利が、何の前触れもなく消滅するのを知るだろう。
民主主義は、それが存在するだけでは、人を幸福にはしない。
だが、民主主義によくかかわる者は、ある充実を得るだろう。ただしそれは未達成にとどまる充実であり、既得権のように「手に入れたから後は永久保証」といった性質のものではない。
民主主義は、決して有権者に快楽をもたらすシステムではない。だが、この永遠に未達成のシステムにかかわる虚しさに耐えるとき、はじめて「自分ならびに他者の権利」は保たれるのだ。
―以上は、歯学博士で評論家の長山靖生さんが「バカに民主主義は無理なのか?」(光文社新書)で結論的に書かれた最後部です。私は同書の全文に同意するものではありませんが、民主主義制度のやっかいさには同感できますし、同制度への無理解者の多さにも驚きます。日本の現状がまさに民主主義への無理解から生じていると思います。
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