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長周新聞 オスプレイ配備が地域や暮らしに何をもたらすか――沖縄から佐賀へ伝える基地被害の実相 普天間爆音訴訟弁護団・林千賀子氏の講演より

杉野です。

 

https://www.chosyu-journal.jp/shakai/26927こちらに全文

 

長周新聞

オスプレイ配備が地域や暮らしに何をもたらすか――沖縄から佐賀へ伝える基地被害の実相 普天間爆音訴訟弁護団・林千賀子氏の講演より

 

(後半)“戦後防衛政策の大転換”とは 佐賀配備の背景

 

  佐賀空港へのオスプレイ配備の背景として、昨今「戦後防衛政策の大転換」という言葉がさかんに使われるようになっている。

 

 

 

 日本の安全保障政策の基本指針とされる「防衛計画の大綱」が1976年に策定され、その後数回の改定をへて、2010年の防衛大綱では「島しょ部における対応能力の強化」「自衛隊配備の空白地帯となっている島しょ部」への自衛隊配置を決定している。これを受けて2014~18年、「中期防衛力整備計画」として南西諸島の防衛体制の強化が本格化する。いわゆる南西シフトの形成というものだ。

 

 

 

 201312月、安倍政権(当時)によって「国家安全保障戦略」が閣議決定で策定される。同年の防衛大綱では、北朝鮮や中国の脅威を強調し、「島しょへの侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備する」とした。

 

 

 

 どうしても疑問が拭えないのは、防衛政策に関するあらゆる資料や論文を読んでも、北朝鮮と中国が日本を狙っているという確たるものが出てこないことだ。私も北朝鮮にはミサイルを飛ばさないでほしいと思うが、そのミサイルの性質や飛距離を考えると、少なくとも日本を狙ったものではないことは客観的事実として明らかといえる。

 

 

 

 中国の脅威についても、最近「台湾有事」が騒がれているが、それは日本有事ではない。なぜ北朝鮮や中国の政策動向が“日本に対する脅威”といわれるのか意味がわからないし、そこにすり替えがあるのかどうかについて、ぜひ皆さんと一緒に考えたい。

 

 

 

 いずれにせよ、それを根拠にして「島しょへの進行があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」を整備するという方針のなかで、佐賀空港へのオスプレイ配備計画が始まっている。この中核にある「水陸機動団」は20184月に設立された。

 

 

 

相手の領域攻撃も想定 安保3文書の改定

 

 

 

 2022126日、岸田政権による「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書の改定が、これまた閣議決定によっておこなわれた。これが「戦後防衛政策の大転換」といわれている。

 

 

 

 安保関連3文書とは、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の三つだ。

 

 

 

 まず「国家安全保障戦略」では、日本を取り巻く安全保障環境が「世界の歴史的な転換期」にあり「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」していると強調している。

 

 

 

 そして北朝鮮=「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、中国=「対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項…これまでにない最大の戦略的な挑戦」としているが、なにが「最大の戦略的挑戦」なのかはわからない。そしてロシアを「安全保障上の強い懸念」としている。

 

 

 

 そうした背景があることを前提に、「既存のミサイル防衛だけで完全に対応することは難しい」とし、飛んでくるミサイルを防ぎながら、さらなる攻撃を防ぐための「反撃能力」(敵基地攻撃能力から名称変更)が必要であるとしている。

 

 

 

 反撃能力の中身は「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき、必要最小限の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能にするスタンドオフ防衛能力等を活用」となっている。「相手の領域」にまで攻撃を可能にするという意味では確かに大転換だ。

 

 

 

 「国家防衛戦略」では、①スタンドオフ防衛能力、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力・国民保護、⑦特殊性・強靱性となっている。一国民としてとくに気になったのは、「⑥機動展開能力・国民保護」で、防衛省ホームページでは「自衛隊の輸送力を強化しつつ、民間の輸送力を活用、平素から空港・港湾施設等の利用拡大」となっている。平時から民間施設の軍事的利用を推進していくというものだ。「防衛力整備計画」とは、防衛に必要な装備についての計画だが、スタンドオフ防衛能力については、長射程ミサイルの量産取得や米国製「トマホーク」の導入、統合防空ミサイル防衛能力におけるイージス・システム搭載艦の整備、無人アセット防衛能力における無人機の整備などとなっている。

 

 

 

 スタンドオフ防衛能力というのは、射程1000~3000㌔㍍の長射程ミサイルなど、「さまざまな地点から重層的に艦艇等を阻止・排除できる必要十分な能力」としている。安保3文書では、同ミサイル3種類を5年間かけて開発・配備するとしており、その間は米国の巡航ミサイル「トマホーク」400発を2113億円で購入して導入するとしている。

 

 

 

 2327年度におけるこれらの計画の実施に必要な防衛能力整備にかかる経費の額は、43兆円程度という。国家財政が赤字といわれるなかで、これだけの規模を軍事に注ぐということをどう考えるか。国民生活に直接かかわる問題だ。

 

 

 

対中国戦略に日本動員 武力行使の要件緩和

 

 

 

 「反撃能力」とは何かを考えるうえでは、201471日に安倍政権がこれも閣議決定した「武力行使の3要件」がある。これら三つの要件を満たす場合には、自衛の措置として、武力の行使が憲法上許容されるべきであるとされている。

 

 

 

 1、わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

 2、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

 3、必要最小限度の実力を行使すること

 

 

 

 だが、201561日の衆院安保法制特別委員会で安倍首相(当時)は、安保法制に基づき集団的自衛権の行使として敵基地攻撃をすることも「法理上はあり得る」とする一方、「われわれは(敵基地を)攻撃する能力はそもそも持っていないわけで、個別的自衛権においてもましてや集団的自衛権(の行使)においては、実際には(敵基地攻撃を)想定はしていない」。そのため、他国領域で集団的自衛権を行使する例としては「ホルムズ海峡における機雷掃海しか念頭にはない」とのべていた。

 

 

 

 当時、国会が非常に揺れていて、ニュースでもさかんに流されていたが、今の「防衛戦略の大転換」に比べると穏やかに見えてしまう錯覚に陥って怖いものがある。

 

 

 

 この大転換の背景として、アメリカでは20211月に成立した国防授権法で「太平洋抑止イニシアティブ(PDI)」という新たな基金が基本予算に盛り込まれることになった。国防授権法は、国防予算を計上するための根拠を示す法律だが、この基金の目的を、インド太平洋地域における米軍の能力向上、同盟国やパートナー国への「安心供与」であるとしている。

 

 

 

 実質は中国に対抗するためのもので、同盟国(日本)を動員して、沖縄など南西諸島を含む「第一列島線」に「精密打撃網」を構築する計画だといわれている。具体的には、艦船搭載の巡航ミサイル「トマホーク」、戦闘機搭載のスタンドオフミサイルなどの配備強化であり、すべて日本の防衛大綱に出てきた話だ。

 

 

 

日本版海兵隊を佐賀へ 佐世保と一体的運用

 

 

 

 そして2018年に正式に設立され、佐賀空港にも配備が計画されている「水陸機動団」とは、全国唯一の陸上戦の専門部隊であり、長崎・佐世保に拠点が置かれている。「日本版海兵隊」と呼ばれるが、米海兵隊の別名は「殴り込み部隊」。敵陣に乗り込んでいく部隊だからだ。

 

 

 

 自衛隊が長年、旧ソ連を念頭に北海道に多くの戦車を置くなど「北の守り」を重視してきたことからみても大きな転換点の象徴とみなされ、海から上陸して島を奪還することを想定し、米海兵隊を参考に3000人規模の大部隊によって対応するとしている。

 

 

 

 そして米海兵隊の新戦略構想「EABO」では、ハワイに「海岸沿岸連隊」を立ち上げ、自衛隊との新たな連携を進めているとされる。ここでオスプレイは、水陸両用作戦で「航空機による着上陸」を担うという。

 

 

 

 これは「南西シフト」と呼ばれる南西諸島への自衛隊配備とも連携したものだ。与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島のうるま市、奄美大島に陸自ミサイル(誘導弾)部隊が配備される。うるま市以外は新基地を建設しての配備となる。

 

 

 

 すでに配備が完了した与那国島では、昨年の日米共同演習「キーンソード23」で自衛隊の戦闘車両が県内で初めて集落内公道を走行し、与那国空港も使用されるなど軍民官の一体化が進んでいる。

 

 

 

 奄美大島でも、ミサイル配備計画を島民が知ったのは、造成工事着工の1年前に開催された住民説明会(一回のみ)だった。ここでも日米合同軍事訓練やミサイル防護訓練などが立て続けにおこなわれている。昨年には発射機能をもつ高軌道ロケットシステム「ハイマース」が持ち込まれた。

 

 

 

 今年216日の日米統合演習「アイアン・フィスト」は、初めて日本(九州・沖縄)でおこなわれ、ここに水陸機動団も参加している。

 

 

 

変化する地域や暮らし 何の為の佐賀配備か

 

 

 

 

佐賀空港に隣接するオスプレイ配備予定地

 

 佐賀空港については、まだ配備されていないので仮定の話でしかないが、これまでのべてきた墜落事故、部品等落下事故、騒音被害の懸念については、沖縄では現実に起きていることだ。

 

 

 

 国側は「民間空港としての利用に影響はない」と説明しているが、実際に軍用機の離発着がおこなわれれば何らかのトラブルや事故による影響があることは否めない。

 

 

 

 仮に米軍機が飛来した場合には、日米地位協定によって日本側はまったく関与できないケースが生まれることも想定される。つまり施設・区域の提供、米軍の管理権、日本国の租税等の適用除外、刑事裁判権、民事裁判権、日米両国の経費負担、日米合同委員会の設置が定められ、時代に合わないにもかかわらず一度の改定もない。

 

 

 

 沖縄県は「米側に裁量を委ねる形となる運用改善だけでは不十分であり、地位協定の抜本的見直しが必要」として毎年度要請をおこなっている。日米地位協定は沖縄で顕在化しているだけで、日本全国に適用されている協定だということを知ってもらいたい。

 

 

 

 経済効果については、地方経済や自治体財政の厳しさを考えると悩ましい問題であると思うが、沖縄では基地がない方が経済的に発展することが実証されている。さまざまな試算もあるし、基地が返還された場所には商業地域ができて経済活動が活発化している。

 

 

 

 ただし辺野古のように過疎化が進み、第一次産業も衰退しているような地域では、ピンポイントの補助金による振興は魅力的に映るかもしれない。しかし、それがはたして持続可能性がある振興になるのか、将来的に経済発展に繋がるのかという点については皆さんで考える必要がある。

 

 

 

 さらに環境への影響では、佐賀空港では条例でアセス(環境影響評価)の実施義務を35㌶以上としている関係で、今回の配備予定地33㌶の開発においては環境アセスが実施されないと聞いている。沖縄ではアセスはおこなわれても不十分なのに、実施もせずに環境への影響を事前調査もしないということを心配されるのは当然だと思う。

 

 

 

 沖縄での米軍基地周辺では、基地から垂れ流されている有害なPFOS/PFOA(有機フッ素化合物)による水汚染が問題になっている。これは住民の体の中に入るからだ。そうでなくても基地からの排水は必ずあるので、水の流れがかわることなどによって塩分濃度が低下し、ノリ生育へ影響することもありうることだと考えられる。

 

 

 

 またオスプレイが発する猛烈な下降気流が、ノリ養殖や農作物に与える影響についても懸念される。騒音によるコノシロ漁や畜産への影響も「ない」とは言い切れない。

 また有明海沿岸の生態系への影響も懸念される。「東よか干潟」は希少種を含む野鳥の保護区であり、これら野鳥へのストレス要因となることも考えられる。

 

 

 

 さらに配備予定地域は、国内有数のバルーン・フライト・エリアであり、大会などがあるときには「飛ばしません」といわれても、「(防衛省側が)配慮をしてあげている」という関係性が生まれることになる。

 

 

 

 どうしても伝えたいのは、20216月に成立した「重要土地利用規制法」の問題だ。これは弁護士でさえ知らないうちに法制化されたものだ。

 

 

 

 これにより自衛隊基地や原子力発電所などの安全保障上重要とされる施設の約1㌔㍍の範囲や国境付近の離島などを「注視区域」に指定し、国が土地などの所有者の氏名や国籍などを調査できる。とくに重要性が高い区域は「特別注視区域」に指定して、一定以上の面積の土地等を売買するには、氏名や国籍などを事前に届け出ることを義務づけている。

 

 

 

 自衛隊の周辺に土地をもっていたりすると個人情報を国が勝手に調べられるし、こうした区域から電波等の妨害行為等が確認された場合には、国が土地や建物の利用中止を命令できる。違反した場合には、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が課されるというものだ。

 

 

 

 私たち国民の財産権に直結する法律であり、今後自衛隊関係施設の周りの方々には、この法律の適用があるにもかかわらず、非常に知られていない法律だ。

 

 

 

 最後にのべたいのは憲法の問題だ。日本にはたくさんの法律があるが、これらが私たちの権利や自由を不当に制限しないためにあるのが日本国憲法だ。法律ではないが、法律の親元のようなものだ。そして現行憲法には、平和原則が謳われている。「戦後安全保障政策の大転換」といわれるものは、この憲法を無視するものになっていないかどうか。しかも国会で議論をして賛否を決めたのではなく、「閣議決定」という手段で進んできてしまっている。

 

 

 

 法治国家における民主主義に基づいた変遷といえるのかどうか――ということを、佐賀空港へのオスプレイ配備問題を捉えるうえでも少なくとも考えるべきではないかと思っている。

 

 

 

 佐賀空港にオスプレイ等の軍用機が配備されることが、私たち自身の生活や人生、次世代以降の生活やその人生に実際にどのような影響をおよぼすのかということを具体的に考える必要がある。

 

 

 

 国家安全保障といえばブラックボックスのようになり、「国がいうのだから大事なのだろう」という気持ちになりがちだが、今選択を迫られている問題が、それぞれ具体的に誰のためにどういうメリットをもたらすのか、そして誰にどのようなデメリットがあるのかということについて最低限わかったうえで、国民、県民、市民が主体的な考えをもって選択していくべきことだと思う。

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平和な有明海

Author:平和な有明海
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佐賀市在住です。平和や障がい者、有明海問題に強い関心を持っています。1950年生まれ。戦争法廃止、原発廃止、有明海再生、障害者と共生できる社会づくりを目指します。

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