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日本のジャーナリズムの真価・真贋が問われている

2013.07.31(21:54) 921


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      ┃Y・記・者・の・「・ニ・ュ・ー・ス・の・検・証・」┃
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□■副総理の麻生氏、憲法改正で「ナチスの手口学んだら」と発言
  ──日本のジャーナリズムの真価・真贋が問われている

 7月29日、麻生太郎副総理兼財務相は、都内の講演で憲法改正について、「騒々
しい中で決めてほしくない。落ち着いて、われわれを取り巻く環境は何なのか、状況
をよく見た世論の上に憲法改正は成し遂げられるべきだ。そうしないと間違ったもの
になりかねない」と語った。

 また、「護憲と叫んで平和がくると思ったら大間違いだ。改憲の目的は国家の安定
と安寧。改憲は単なる手段だ」とも主張した。

 麻生氏はこの一連の発言のなかで、憲法改正をめぐり、最も民主的と言われたワイ
マール憲法の下で、ヒトラー政権が誕生したことを挙げ、「ワイマール憲法もいつの
間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか。(国民が)騒がない
で、納得して変わっている」(読売新聞)と、戦前ドイツのナチス政権時代に言及し
た。

 この重大な問題発言について、スポニチが同日深夜に「麻生副総理 改憲でナチス
引き合い、都内の講演で語る」の記事、読売新聞が翌30日早朝に「ナチスの手口学
んだら…憲法改正で麻生氏講演」の記事、続いて共同通信が30日夕方、<韓国、麻
生副総理の発言を批判 「多くの人を傷つける>の記事を出した。

 共同通信の記事は、韓国外務省の趙泰永報道官が30日の定例記者会見で、麻生氏
が「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。あの手口を学んだらどう
か」と述べたことについて、「こうした発言が多くの人を傷つけることは明白だ」と
批判したことを伝えた。

 時事通信も31日昼、<「ナチスの手口に学べば」=麻生氏、改憲めぐり発言>の
記事を出して、──麻生太郎副総理兼財務相が29日、東京都内のホテルで講演した
際、憲法改正に関し「いつの間にか騒がれるようになった。マスコミが騒いで、中国
も韓国も。ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も
気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と述べていたことが31日、分か
った──と伝えた。

 東京新聞も31日の朝刊で、「改憲でナチス引き合い 麻生副総理、都内講演で」
の記事を出し(スポニチの記事とほぼ同一)、あわせて<あの手口を学んだらどうか
 麻生氏の発言要旨>を掲載した。

 朝日新聞は29日の夜に、<「護憲と叫べば平和が来るなんて大間違い」麻生副総
理>の記事を出した。だが、「ナチスの手口に学べば」の発言にはまったく触れてい
ない。

 麻生氏の発言を、1)日本の置かれている国際情勢は(現行憲法ができたころと)
まったく違う、2)護憲、護憲と叫んでいれば平和がくると思うのは大間違いだし、
仮に改憲できたとしても、それで世の中すべて円満になるというのも全然違う、3)
改憲の目的は国家の安全や国家の安寧。改憲は単なる手段なのです。狂騒・狂乱の騒
々しい中で決めてほしくない、4)落ち着いて、我々を取り巻く環境は何なのか、状
況をよく見た世論の上に憲法改正は成し遂げるべきなんです。そうしないと間違った
ものになりかねない、と整理している。

 麻生氏のいわんとすることを、新聞社のほうで忖度して、「正確を期す」ためにと
して、「ナチスの手口に学べば」の発言を省いてしまったのだろうか。記者の段階で
すでに省かれていたのか、それとも次の段階か、あるいはそれよりも上か。気になる
ところである。

 朝日新聞が独自の判断で、麻生氏の発言をやんわりと丸めて、「護憲、護憲と叫ん
でいれば平和がくると思うのは大間違い」の点と、「改憲は単なる手段なのです。狂
騒・狂乱の騒々しい中で決めてほしくない」の点に着目し強調するのは、ある意味、
自由であるし、それはそれで「判断」でもあろう。しかしながら、その指摘のあと
に、「ナチスの手口に学べば」の発言を付け加えることはできただろうし、それは必
要なことではなかっただろうか。欠かすべきではなかったのではないだろうか。

 たとえば麻生氏の発言が<「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わって
いた」>だけで終わっていたとすれば、どうだったか。これなら、麻生氏は、改憲を
進める立場であっても、<改憲の目的は国家の安全や国家の安寧。改憲は単なる手段
なのです。狂騒・狂乱の騒々しい中で決めてほしくない><落ち着いて、我々を取り
巻く環境は何なのか、状況をよく見た世論の上に憲法改正は成し遂げるべき>との立
場にあって、拙速な「改憲」推進で足をとられるような政治家ではないと、暗に描き
出すこともできたかもしれない。

 朝日新聞は、それならば、麻生氏が日本の改憲問題についてナチスを例に挙げて話
したことを報じただろうか、ということも考えたくなる。しかしながら麻生氏は同
日、靖国神社参拝について「静かにお参りすればいい。何も戦争に負けた日だけ行く
ことはない」(産経新聞)とも述べている。憲法改正については、「やれる情勢はで
きつつあるが、冷静に取り組むべきだ」とし、「(安全を近隣諸国に委ねる書きぶり
の)前文を読んだだけで、『危ない』と思うのが常識だ」(同)とも指摘し、防衛費
について「減らし続ければ日本は自国を『守る気がない』と思われる」(同)として
増額の必要性を訴えている。

 まして麻生氏は実際には、<「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっ
ていた」のあとに、「誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と、は
っきりと話しているのである。記事にするにあたり「真意を確かめる必要がある」と
の判断がどこかからあがる可能性はあっても、麻生氏の「ナチスの手口に学べば」の
発言は改憲問題単独でなされたものではなく、「失言」の類として軽視したり、記事
からその発言を削除できるような内容とは到底思えないのである。

 3・11以降、マスメディアの停滞を感じてきた者の一人として、最近ようやく同
紙のがんばりを感じる記事と出会うことが多くなり、期待を膨らませていただけに、
ジャーナリズム学者の新井直之氏の<報道について判定するとき、「どのように報道
されたか」という基準よりも、「なにが報道されていないか」という基準のほうがは
るかに大事である>(『ジャーナリズム』(東洋経済新報社、1979年、p18
4)との指摘を思い出さずにはいられない、この件の同紙の扱いは残念至極である。
<朝日新聞はなぜ、それを伝えなかったのか>、同紙の判断とプロセスを詳しく知り
たいところである。

 副総理兼財務相の麻生氏のこの発言は、重大である。日本の民主主義、平和主義、
人権尊重社会を軽視し、それを主軸とする日本国憲法そのものをふみつけにして、日
本国憲法そのものの「有名無実化」をはかろうする姿勢を、露骨に顕した発言といえ
る。

 長く政権を握ってきた自民党は、2009年に政権から引き摺り下ろされ、12年
末、かろうじて政権に復帰した。そして、13年夏の参院選で大勝した。安倍氏や麻
生氏は、昨年末の総選挙時にも、また先日の参院選でも、投票日を前に日章旗や日の
丸の手旗を手にした集団を集めて、気勢をあげ、陣営を引き締めたりしている。彼ら
の「改憲」策動は、崩壊し続けてきた自民党の基盤を、最後のところで食い止めるた
めの水際作戦とみることができるだろう。

 それは、日本社会の民主主義、平和主義、人権尊重社会の構築を不断に求めてやむ
ことのない日本社会のありようを、彼らの「日本支配」のために後ろ向きに変えよう
としている点で、日本社会そのものを亡国へと追い込む道を指し示している。その意
味では、まさしく重大な国内問題であるが、麻生氏が「改憲」への道筋について今回
示した「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた」「あの手口に学
んだらどうかね」と発言したことは、参院選で大勝し「衆参のねじれ」を解消しても
なお、自民党の「改憲」路線には幾重にも歯止めがかかっている状況に対する「いら
だち」を示しているともいえるだろう。

 しかしながら、麻生氏が持ち出した「ナチスの手口」は、すでに彼らの「改憲」志
向と右翼カルト的言動が、すでに国内問題ばかりでなく、国際的な問題として認識さ
れつつあることを感じさせる。彼らを政権へと復帰させ、ねじれも解消させる原動力
となったと彼らが思い込み、頼みとし(かつ利用してやまない)ている日章旗や日の
丸の手旗の集団、足場としてのそれと、その路線に対する米国はじめ中国、韓国など
の「ガイアツ」。彼らは、参院選で圧勝しきたことで「国内はなんとかなる」と踏
み、すでに見下しているのかもしれない。だが、国際的には、自民党流の平和主義、
民主主義、人権尊重を覆そうとする「改憲」の動きは、大問題である。

 30日に、韓国外務省の趙泰永報道官が「こうした発言が多くの人を傷つけること
は明白だ」と批判したこと、それを共同通信がすばやく伝えてことは前にふれたが、
まず韓国各紙が、この件がなぜ国際的な問題なのかも含めて取り上げている。

 朝鮮日報(日本版)は31日の社説「ナチス式の憲法改正に言及した日本の極右政
治家」で、<第2次世界大戦終戦後、世界各国はヒトラーとナチスを肯定的に捉える
言葉や行動をタブーとしてきた>ことを、あらためて指摘し、<自民党が改憲に向け
て動き出すとしても、日本国内は決してこれを後押しするような状況ではない>とし
て、1)自民党と連立政権を組む公明党が憲法改正に反対している。毎日新聞が先日
行った世論調査によると、日本国民の51%が憲法改正に否定的な考えを持っている
ことも分かっている、2)韓国や中国などアジア諸国も、日本が平和憲法を改正して
再武装することに反対している>と書いている。

 そのうえで、このような状況の中、<麻生氏が「ナチス方式の改憲」について言及
した。麻生氏の発想は、平和憲法を見直すためにはヒトラーが使った超法規的な方法
も辞さないというものだ><日本は第2次大戦でヒトラーのドイツと手を組み、ドイ
ツがユダヤ人や欧州諸国に対して行った以上の虐殺や蛮行を、韓国や中国をはじめと
するアジア各国に対して行った。このような国が本当に歴史を振り返ることができれ
ば、いかなる場合でも「ナチスの手口を参考に」などと語るべきでないことくらい
分かるはずだ>と言及している。

 中央日報も(日本版)31日の社説<「ナチスのように改憲」主張した麻生副総
理、失言か信念か(1)>で、<ワイマール憲法は現代的憲法の最初で、「最も理想
的だった憲法」と呼ばれる。ナチスの首魁アドルフ・ヒトラーは1933年に首相に
なった後、これを無力化した。立法権など議会の固有権限を抹殺し、自身が率いる政
府がすべての権限を行使できるようにしたのだ>と前置きして、<麻生副総理の発言
は、改憲の議論は喧騒の中でするのではなく、落ち着いた雰囲気の中で行われるべき
だという主張とも受け止められる。しかしナチスを引用しながら日本の改憲問題を取
り上げたのは、その策略が結局、ヒトラー式の専制主義と軍国主義を内心指向してい
るのではという疑惑を招くのに十分だ。共同通信もこの日、「ナチス政権を取り上げ
た部分は論争の余地がある」と指摘した>と書いている。

 東亜日報も31日付の<麻生副首相「ナチスのように誰も気がつかない間に改憲
を」の国際記事で、以下のようにこの件を解説している。

1)日本の麻生太郎副首相が29日、ドイツのナチス政権の憲法無力化の手口を学ぶ
 べきだという趣旨の発言をし、波紋が呼んでいる。
2)日本経済新聞などによると、麻生副首相は同日、民間シンクタンク「国家基本問
 題研究所」の主催で東京で開かれた月例研究会の講演で、憲法改正と関連して、
 「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変
 わった。あの手口を学んだらどうか」と述べた。同研究所の理事長は、代表的な保
 守女性論客の桜井よしこ氏だ。
3)1919年に制定されたドイツのワイマール憲法は、国民主権と民主主義の原理
 を掲げるなど現代憲法に大きな影響を与えた。しかし、1933年に首相になった
 ヒットラーが授権法を制定し、議会と別に政府が立法権を行使できるようにした。
 その後、ナチスの独裁とユダヤ人虐殺が行なわれた。
4)このような発言は、日本でも大きな話題になりそうだが、多くの日本メディアは
 麻生副首相の発言を報道しなかったり、短く扱った。突発的な発言と考えているよ
 うだ。

 さて、どうなのだろうか。多くの日本メディアは、「麻生副首相の発言を突発的な
発言」と考えているのだろうか。それともいま、各社、それぞれ、動き出しているの
だろうか。上記で紹介したように、中央日報(日本版)31日付社説は、<ナチスを
引用しながら日本の改憲問題を取り上げたのは、その策略が結局、ヒトラー式の専制
主義と軍国主義を内心指向しているのではという疑惑を招くのに十分だ>としてい
る。

 朝鮮日報は、<日本は第2次大戦でヒトラーのドイツと手を組み、ドイツがユダヤ
人や欧州諸国に対して行った以上の虐殺や蛮行を、韓国や中国をはじめとするアジア
各国に対して行った。このような国が本当に歴史を振り返ることができれば、いかな
る場合でも「ナチスの手口を参考に」などと語るべきでないことくらいは分かるはず
だ。それが政治指導者に求められる最低限の常識であり教養だ>と指摘している。

 麻生氏の「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた」「あの手口
に学んだらどうかね」の発言は、第2次大戦で日本がヒトラーのドイツと手を組んだ
こととどう関係しているのか。麻生氏のなかで、第2次大戦当時のヒトラーのドイツ
は、どのような存在なのか。発言は、東亜日報が見出しにつけたように、「ナチスの
ように誰も気がつかない間に改憲を」という意味だったのか。麻生氏の発言につい
て、踏み込んで取り上げ始めた韓国各紙の「疑念」に、麻生氏はどう答えるのか。日
本のメディアは、この問題から何を引き出し、何を国内外に伝えるのか。

 日本の市民は、事実を知る権利がある。日本の市民だけではない、麻生氏の発言の
真意は、世界の関心事であり、知る権利がある。日本のメディアは、そのことを忘れ
るわけにはいかないだろう。

 私たちは、非常に重要な局面にいることを広く共有し、事実関係の掘り下げとその
共有と、自民大勝による「衆参のねじれ解消」のいまについての認識を深めねばなら
ないときを迎えているように思えてならない。


麻生副総理 改憲でナチス引き合い、都内の講演で語る(スポニチ7月29日)
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/07/29/kiji/K20130729006320770.html
「護憲と叫べば平和が来るなんて大間違い」麻生副総理(朝日新聞7月29日)
http://www.asahi.com/politics/update/0729/TKY201307290380.html
ナチスの手口学んだら…憲法改正で麻生氏講演(読売新聞7月30日)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130730-OYT1T00050.htm
韓国、麻生副総理の発言を批判 「多くの人を傷つける」(共同通信7月30日)
http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013073001002301.html
「ナチスの手口に学べば」=麻生氏、改憲めぐり発言(時事通信7月31日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013073100404
改憲でナチス引き合い 麻生副総理、都内講演で(東京新聞7月31日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013073102000111.html
あの手口を学んだらどうか 麻生氏の発言要旨(東京新聞7月31日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013073102000110.html
【社説】ナチス式の憲法改正に言及した日本の極右政治家(朝鮮日報7月31日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/07/31/2013073101046.html
「ナチスのように改憲」主張した麻生副総理、失言か信念か(1)
(中央日報日本語版7月31日)
http://japanese.joins.com/article/507/174507.html?servcode=A00§code=A10
麻生副首相「ナチスのように誰も気がつかない間に改憲を」(東亜日報7月31日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2013073134038

(JCJふらっしゅ 2280号より)
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